ミツバチにまつわるお話

第3回 ダンスを踊ってコミュニケーション

円形ダンスと8の字ダンス

 ミツバチは「社会性昆虫」と呼ばれるように、互いの仕事を分担し合い、規則正しい集団生活を営む一つの社会を築いています。社会生活を営むにはお互いの意思の疎通、つまりコミュニケーションが必要です。言葉もしゃべれないはずのミツバチたちは、いったいどうやって”会話”しているのでしょうか?
 たとえば、蜜源を探しに行った斥候役の働き蜂は、巣に戻るなり「見つけたわよ!」と尻振りダンスで場所を教えます。このダンスを発見したのはオーストリアの昆虫学者カール・フォン・フリッシュで、その功績により1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
 巣に戻った働き蜂は、巣箱に垂直に入れられた巣の上でダンスを踊ります。蜜源がごく近く(およそ30メートル以内)にあるとき、蜂はぐるぐると円を描くように踊り始めます。すると、ほかの蜂たちもお尻のあとにつき従って、ぐるぐる回ります。この円形ダンスは「獲物がすぐ近くにあるわよ」というサインであり、お尻にくっついて回っていた蜂たちは「ガッテン承知」とばかり、大挙して飛び出していきます。
 この距離より少し遠いところに蜜源があるとき、今度はせわしなくお尻を振りながら8の字を描きます。そして、花が遠くにあるときは、ゆっくりとお尻を振りながら8の字を描きます。
 蜜源の方向は踊りの角度で知らせます。それも、太陽光線を重力に置き換える方法です。たとえば、巣から見て蜜源が太陽と同じ方向にあるときは、尻振りダンスは真上に向かって踊られます。8の字の中心線は垂直となります。蜜源が太陽の左にあったり、右にあったりしたときは、8の字の中心線もその角度に合わせたものとなります。太陽より左120度に蜜源があるなら、尻振りダンスも左を向き、8の字の中心線は垂直方向に対して120度の角度となります。
 さらに最近、ミツバチは音でも会話していることがわかってきました。羽ばたきが音となり、密源までの距離や方向を伝えているというのです。
 ミツバチは尻振りダンスを踊るとき、飛翔筋を細かく動かして250ヘルツ前後の周波数の音を出します。実は、この音が1秒続くと餌場は600メートル先、2.5秒なら1500メートル先といったように、正確に伝えているのです。
だからミツバチは、手当たり次第に蜜や花粉を集めて回るという無知で野蛮で効率の悪いことはせず、正確無比の情報伝達のもと、豊富な蜜源をターゲットに絞り、レンゲならレンゲ、ミカンならミカンと、同じ種類の花に通い続けることができます。このようなミツバチの習性を「訪花の一定性」と呼んでいます。

計算・学習するミツバチ

 目的地にすばやく到達し、情報を正しく伝えるため、ミツバチは独自の”コンパス”や”時計”も持っています。
 1キロも2キロも離れていようが、獲物の採集が終わると、ミツバチは弾丸のように一直線で巣に飛んで帰ってきます。何を頼りに巣に帰ってくるかというと、太陽です。蜜源を知らせる尻振りダンスと同様、太陽光線を軸にした幾何学的な計算が頭に入っていて、この原理は「光のコンパス」と呼ばれています。
「光のコンパス」は、曇り空で太陽が顔を出していなくても働きます。おそらく雲を通して届く目に見えない光である熱線(赤外線)を感知する能力を持っているのではないか、といわれています。
 このようなミツバチの行動は、イギリスの科学者チームがレーダーでミツバチを追跡して確認。2005年5月に、世界で最も権威があるといわれる科学誌『ネイチャー』で発表されています。
 同チームによる観察と研究の結果、ミツバチは確かに斥候役の蜂のダンスを解読して、示された方角に真っ直ぐに飛んでいくことがわかりました。さらに、風があるときには地面と太陽の方角を見て横方向のずれを知り、風で流された分を修正していたといいます。
 ミツバチの体内には”時計”も内蔵されています。「生物時計」「体内時計」と呼ばれる機構が脳の中に組み込まれているのです。体内時計によって蜜を採りにいく時刻を知る能力も身につけています。たとえば、ある種類のミツバチは、午後1時から3時の時間帯にしかエサを集めに行きません。ミツバチは決められた時刻を守っているのです。
 しかも、ミツバチは時刻を学習する能力を持っているといいますから驚きです。
 花の種類によっては、一日の中でも濃くて甘い蜜を出す時刻が違います。午前11時ごろに盛んに蜜を出す花もあれば、午後3時ごろという花もあります。
 少しでもたくさんの蜜や花粉を、効率よく集めようとするのがミツバチの習性です。そこで、花がどの時刻に蜜をたくさん出すかをしっかりと記憶して、体内時計をリセットし、毎日その時間帯に花を訪れるようにするのです。
 人間よりはるかに小さな脳と体しか持たないのに、人間以上に賢い働きをする――それがミツバチといえそうです。