ミツバチにまつわるお話

第5回 美しい六角形の住まい“ハニカム”

ミツバチは優秀な建築家

 ミツバチがたいへん優秀な建築家だということを知っていましたか? 美しく機能的にも優れた立体建築によって、人間がうらやむような住まい=巣をつくるのがミツバチなのです。
 日本の宇宙開発史上で最も重い5.8トンもの技術試験衛星「きく8号」を乗せたH2Aロケットが昨年の暮れ、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。衛星には携帯電話など移動体通信をさらに便利にするためのパラボラアンテナが備えられていて、地球を回る軌道に乗ったところで、折り畳まれていたパラボラアンテナが開かれました。
 この巨大アンテナ、実はミツバチの巣からヒントを得ています。六角形のモジュールが14枚集まって1枚の大きなパラボラアンテナを構成しているのですが、この六角形が集まった形とは、ミツバチの巣にほかなりません。宇宙空間という過酷な環境の中で巨大なアンテナを展開するには、軽くてしかも頑丈で広げやすく、通信アンテナとしての精度も高いものでなくてはいけません。その点でピッタリだったのが、ミツバチの巣というわけです。規則正しく縦横に並んだミツバチの巣を真似た利器は「きく8号」以外にもいくつもあります。
 ミツバチの巣のことを「ハニカム」といいます。六角形の小部屋ひとつひとつが巣房であり、働き蜂はそこにハチミツを貯蔵し、女王蜂は卵を産みつけていくのです。

六角形を選んだ賢さ

 ミツバチが六角形を選んだ理由は簡単です。最小の空間に最もたくさんの、しかも頑丈な巣を作るには、六角形が一番適しているからという、非常に合理的な理由からです。頭がいいはずの人間が思いつかなくて、ローヤルゼリーとミツバチ生産のため一心不乱に働くミツバチがそれを思いつくのですから、賢さとは、単に頭脳が発達していればいいということではないようですね。
 最小の材料で強度の強いものをつくろうとしたら、一番いいのはまんまるの円です。ガソリンや高圧ガスなどを運ぶタンクローリーが丸い形をしているのも、ビールのビンや、トンネルが丸いのも、それが理由です。
 ただし、まんまるの円をたくさん積み重ねていくと、円と円の間に隙間ができてしまいます。このような無駄な空間をなくし、なおかつ円に近いものをつくろうとする場合、材料が最小で、なおかつ隙間が無く、最も強度が強くて安定した構造体となるのは、六角形なのです。
 ミツバチの巣房の壁の厚さは0.07~0.09ミリと超薄型。セイヨウミツバチの場合、一枚の巣板に数千個もの六角形の巣房が整然と並び、数枚の巣板で一つの巣をつくります。ハニカム構造のおかげで、壁が薄くても、巣の重さの30倍ものハチミツを蓄えることができます。

究極の手づくり・天然素材の家

 ミツバチはこれほど見事な立体建築を、定規やコンパスもなしに正確に計測し、美しい幾何学模様を完成させています。
 モノサシとなるのは自分の体、とくに頭の先端から突き出ている2本の触覚です。触覚で巧みに長さを測り、正確な六角形を形づくっているのです。
 ミツバチは自分の体内から分泌される天然素材で巣を作ります。何かというと、ミツロウ(蜜蝋)とかハチロウ(蜂蝋)とか呼ばれるロウ(蝋)です。
 この点はほかの蜂の仲間ともかなり違うところです。たとえばアシナガバチやスズメバチは木の葉や樹木の皮などを集め、唾液で溶かして木製の巣をつくるし、ドロバチやジガバチの巣は、土と唾液を混ぜ合わせたモルタルづくりです。
 ところがミツバチは、自分の体内から吐き出す分泌液で巣を作ります。材料となるロウは、ミツバチの体内に入った花の蜜と花粉が化学変化してできます。ミツバチの腹部にある4対のロウ腺から分泌されたロウを口に入れて、唾液で混ぜ合わせます。こうしてできたミツロウを使い、ミツバチたちは触覚を定規にして計測しながら、あの見事な六角形の巣をつくっていくのです。
 ミツロウは天然の固形ワックスですから、しっかり形を整えるとともに、雨が降っても水をはじいてくれるし、唾液と混ぜ合わせて巣を頑丈にします。
 安全・安心の家づくりのため、あの小さな体から建築材料までも絞り出しているのがミツバチ。最小の材料で最高のものをつくる、優秀な建築家なのです。