ミツバチにまつわるお話

第10回 世界中のミツバチはわずか9種類

最大勢力のセイヨウミツバチ

 地球上の生き物で最も繁栄を謳歌しているのが昆虫です。何しろ昆虫は約80万種類も生息していて、動物全体に占める割合は実に70%に及んでいます。このうちミツバチは、ハチ目(膜翅目)ミツバチ科ミツバチ属に属して、世界中に分布を広げています。さぞやたくさんの種類がいると思うかもしてれませんが、独立の種として認められているミツバチは、世界中でわずかに9種類です。
 ミツバチと同じように花蜜や花粉を集めるハナバチの一種であるマルハナバチは約250種以上も確認されているのに、大変な少なさです。
 ハナバチの多くが単独生活をしながら花粉や密を採集しているのに対して、数万の蜂群によって整然とした集団生活を営み、社会性昆虫と呼ばれているのがミツバチです。昆虫界の進化の頂点に立っているだけに、その種類も限られたものとなっているのでしょう。
 9種類のうち、最大勢力がセイヨウミツバチです。養蜂に適しているというので世界中で飼育されていますが、もともとはヨーロッパからアフリカ、中近東にかけて分布していて、24種類の亜種があります。代表的なのはヨーロッパ北部原産のクロバチ、イタリア原産のイタリアン種、オーストラリアアルプス南部とユーゴスラビア原産のカーニオラン種、中央コーカサス地方原産のコーカシアン種です。中でも、性格が温和で、蜜を集める能力が高くて多収が見込めるイタリアン種は、世界の各地で飼育され、養蜂の主役となっています。
 残りの8種類はすべてアジアに分布しています。
 トウヨウミツバチは広くアジア各地に生息し、4種の亜種があります。本州以南の日本各地に生息しているニホンミツバチは、トウヨウミツバチの1亜種。日本には野生種であるニホンミツバチと、1877年に養蜂用に導入されたセイヨウミツバチ(イタリアン種)の2種類のミツバチが飛び交っています。
 このほか、アジア原産のミツバチとしては、従来、オオミツバチ、コミツバチが知られていました。しかし、1980年にヒマラヤオオミツバチ、87年にクロコミツバチ、90年にサバミツバチ、96年にクロオビミツバチ、キナバルヤマミツバチが新しい種として加わり、アジア原産のミツバチは8となり、セイヨウミツバチを加えて9種類となっています。

キラービー(殺人蜂)の悲劇

 意外なことに、南北アメリカにはもともとミツバチはいませんでした。
 養蜂のためヨーロッパから輸入されたのがセイヨウミツバチです。そのセイヨウミツバチが、アメリカ大陸の南と北で次々と事件を起こしています。
 まずはブラジルで起こったミツバチの逃亡事件です。
 ブラジルの養蜂は、ヨーロッパから導入したセイヨウミツバチのイタリアン種を中心に行われていたのですが、熱帯の気候に適さないのか、思ったほど蜜を集めませんでした。品種改良をしようというので1950年代に、新たに導入されたのがセイヨウミツバチのアフリカ系野生種(アフリカミツバチ)です。
 ところが、このアフリカミツバチは、蜜集めは熱心ではあるけれど、とても凶暴なハチでした。研究用に飼っていた26匹の女王ハチが逃げ出し、巣分れを起こしました。自由を得たアフリカミツバチはイタリアン種と交雑して勢力を拡大(イタリアン種との交雑種はアフリカ化ミツバチと呼ばれる)、やがて家畜や人間を次々と刺すようになりました。「キラービー(殺人ミツバチ)事件」というので、日本でもマスコミで大々的に取り上げられたし、映画にもなりました。
 狂暴化したアフリカミツバチは、やがてブラジル全土に広がっていき、さらに南アメリカ全域から、北アメリカにまで勢力を広げていきました。現在も分布を拡大中ということです。
 なぜキラービーになってしまったのか。アフリカミツバチは巣を守る防衛本能が強く、ちょっとした刺激にも反応してやたらと刺す性質をもっていて、攻撃性の強い蜂です。それがイタリアン種と交雑し、これまでアフリカミツバチが生息していなかった地域の環境条件とも合わせて、余計に凶暴性を持つようになったのではないか、というのが専門家の見方です。本来、棲むところとは違う場所につれてこられて、キラービーに変身してしまったとしたら、人間の身勝手が生み出した悲劇とはいえないでしょうか。  そして、今、問題になっているのはアメリカでのミツバチの集団失踪。これについては次回に。